マスタークロックは、デジタルオーディオ再生の要です。
今回は、色々とクロックを聴いてきて、思っていることを書かせていただきます。

デジタル信号として保存されたデータを、時間軸に沿って波形情報に戻すのが、DAコンバーターです。
その際に、時間軸がぶれないように、正確に時間を刻むのがクロックです。

回路は長ければ長いほど、間に機器を挟めば挟むほど、信号のタイミングにブレが生じます。
ですので、「どこにクロックを入れるか?」という問題の答えはすでに出ていて、「DACの直近」です。



で、それだけで話が解決するかと言うとそうでもありません。DACはデータが入って初めて動作します。なので、DACの動作に合わせて、過不足なくデータがDACに供給される必要があります。

現在のオーディオでは、データは、①本体のメモリの中、②CDなどの記録媒体ドライブの中、もしくは③CDトランスポートなどのデジタルケーブルで接続された機器の中、あるいは、④USBケーブルで接続されたPCの中、⑤ネットワークで接続された記録ドライブの中、⑥インターネット接続の向こうの配信サーバーなど、様々な場所に格納されています。これらの記録データをDACまで過不足なく運び供給する必要があります。 

DACへのデータ供給はDAC直近のクロックによって行われるのが、最も理想的な条件です。
これを実現するために、どの様にコントロールするか?というのが問題になります。
上記①〜⑥において、再生に同期して(1:1速度で)読み出しが行われるのが、①、②、③、(④)。そして、再生速度以上の信号で転送されて一旦バッファメモリに入り、そこから読み出されるのが、⑤、⑥、(④)だと一般的には分類されます。④については、同期転送(シンクロナス)と非同期転送(アシンクロナス)のモードがあるとされ、シンクロナスが前者、アシンクロナスが後者に分類されます。
 
ここから、デジタル再生の歴史を、自分の認識に基づいて記載させていただき、考察を進めようと思います。

アナログ時代のオーディオは完全に同期転送でした。読み出しの速度がそのまま再生速度となるため、アナログディスク(レコード)や、テープ(オープンリール、カセットテープ)は、再生の回転速度変動、回転ムラがおこらないように、重厚なターンテーブル、テープ送り速度制御機構が組み込まれました。

CDプレイヤーも初期のものは読み出し速度≒再生速度であり、CDプレイヤーの中のクロックによって速度が規定されました。原理的には完全にクロックに依存するはずですが、この時点で、CDの回転状態やピックアップの読み出し精度の差が音質に影響を及ぼす、ということも知られるようになり、様々な高級CDプレイヤーが開発されました。(CDに重厚なクランプを当てて再生するVRDS、CD回転をベルトドライブで行う方式、ピックアップを固定して回転するCDの軸を動かす方式、一点支持でピックアップを動かすスイングアーム式光学系などです。)

情報技術の発達により、曲1曲分のデータ、CD1枚分のデータがPC内に保存したり再生出来たりするようになると、メモリ(データ)を再生する、という概念が登場しました。これにより、CD音源をCDを回転させずに再生できるようになりました。再生速度はクロックのみに依存するはずであり、VRDSなどは時代遅れとなり、CDの読み出しエラーからは開放されるはずでした。(実際に確認するとCDの読み出しエラーは音質に影響を及ぼすほど起こっていないことが後に確認されます。)

さらに、再生速度に同期せず、再生速度よりも早い転送手段でメモリにデータを展開し、それをクロックに従って正確に再現できる、という方法も確立されてきました。USBの非同期転送、ネットワークでのデータ転送です。

PCでのデータ再生によって、すべてのジッター問題は解決されたかに思えました。



しかし、2010年以降、PCオーディオが実際に検証されるようになると、CDで得られていた音質は必ずしもPCオーディオでは得られていないことに、一部ユーザーがだんだん気づくようになりました。また、2009年頃より高精度クロックブームが到来し、LCAudio、Dexa、NewclassD(これはすべて中の人は同一)、SounddenFidelixプラクトサウンドNeb(根布産業)などのクロックが導入され、様々なクロック換装が行われ、その音質に人々は驚嘆しました。

その後、Squeezeboxや、LINN DSが世間に登場し、DLNAの登場と相まって、NASに入れたデータを再生する、という形式が徐々に普及してきました。 LINNはそれまで製造していたCD12の製造を終了し、回転系ディスクプレイヤーからネットワークプレイヤーに完全に移行し、2017年、LINNよりCD12の修理対応も終了の宣言がなされました。CDプレイヤーの時代は終焉したかに思われました。



USBの非同期転送も、LANでのデータ転送も、いずれも転送の状況と再生速度は関係しないはずであり、再生するタイミングまでにデータがDACまで届いていれば、その再生音は一定であるはずでした。(そのように期待され、そのように設計され、そのように製造され、そのように販売され、ユーザーはそれを期待して購入しました。)

さらにプレイヤーについても検討がなされました。可能な限りシンプルな再生系に、高精度なクロックを搭載する、というコンセプトで、Sforzato DST-01がデビューしたのは鮮烈でした。(自分も予約購入しました。)
Sfrozato DST-01は、本来対となるDACが開発されるはずでした。そして、DST-01には、ワードクロック入力もついていました。ワードクロックとは、44.1kHz、48.1kHzといった、オーディオデータの周波数で、再生速度をコントロールする信号システムです。この当時、ちょうど中古ルビジウムユニットが市場に多く出回りだしたため、ルビジウムクロック搭載製品として、出力をワードクロック周波数に合わせた製品が多数発売されました。

一方でワードクロックの外部注入には一つ問題がありました。44.1kHz系(CDや後のYoutube、DSDなど)と48kHz系(DVDや、いわゆるハイレゾなど)はそれぞれ周波数が異なるため、これらを切り替えて再生する場合は、クロックの切り替えも必要でした。1台のクロックで全部切り替えられたらいいのに...という希望を叶えるために登場したのが、10MHzのクロックシステムでした。DST-01もファームウェアのバージョンアップでこれに対応し、その後、PMC-01などの高精度クロックが市販されることになりました。10MHzクロックの導入により、再生周波数が切り替わる場合でもクロックの周波数は変更なしで再生することが可能になりました。

世の中には10MHzマスタークロックが溢れ、マスタークロックというのは10MHzである、という概念が広く浸透したのが現在です。
しかしながら、44.1kHzも、48kHzも、10MHzとは割り切れない関係ですので、10MHzでオーディオ再生をする、というのにも若干の無理があります。(できないことはないけど、理想動作できない可能性がある、という状況です。)

いずれにせよ、デジタルデータ再生は、ここで一つの結論へ到達し、これ以上の音質向上要素はなさそうに思えました。




しかし、ここで、より高音質な再生方式として、新しい方法が提案されました。
USBの接続での高音質再生を提案したJPlay、そして、LAN接続での高音質を謳ったDirettaLAN‐DACなどです。これらはいずれも、非同期で転送されるデータを細切れにして、リアルタイムにプレイヤーに流すことで、プレイヤー側からみて、常に一定の速度でデータが流れてきているようにすることで、プレイヤーの負荷(仕事量)を一定にし、それにより高音質を目指す、という方法です。プレイヤーが一度に多量のデータを受けると、それをメモリに保存する動作のために動作が変動し、それにより再生にふらつきが生じ、音質に変化がおきる、と推測されます。これは、プレイヤー側の設計の問題(その程度で再生がふらつくのでは非同期転送のメリットがない)なのですが、商業的な理由から、JPlay、Diretta、LAN-DACがいずれも、今までにない素晴らしい転送方法であるかのように宣伝されているのが現状です。

そこで根本に立ち返ってみるわけですが、根本は、DAC直近のクロックをマスターとする方法です。そして、原因はともかく、非同期転送よりも同期転送のほうが音が良い可能性が示唆されてきています。そして、更に追求すれば、DAC直近のクロックですべてのシステムが同期動作するのが理想です。となると、クロック伝送の観点から、データ読み出しもできるだけDACに近いほうが有利な可能性があります。これを実現するためには、データトランスポート一体型プレイヤー、データ読み出し装置一体型プレイヤーなどがあります。

データトランスポート一体型プレイヤーとしてはSDtransなどの、クロックを直接注入できるタイプのトランスポートでDAC直近のクロック信号をそちらにも送り再生する方法があります。
そして、読み出し装置一体型プレイヤーですが、ソフトの入手簡便性などを考慮すると、現在はCDプレイヤーが一番現実的です。(結局振り出しに戻ってしまいます。)

実際のところ、様々な機器を巡った後に聴く高品質クロック搭載のCDプレイヤーは、クロックのフォーカスが合って、とても良い音だと思います。 良いクロックでの再生は、①空気感、②音のフォーカス、③全体の説得力、が向上すると認識していますが、先日クロック換装を外注したCDプレイヤーも非常に良い音だと思います。




デジタルオーディオですが、8607BVADuCULoN、とn周まわって、現在CDプレイヤーまで帰ってきてしまいました。

理想的には、オーディオ周波数の高精度クロックを内蔵したメモリプレイヤーが理想になりそうに思います。そういう意味では、LUMINAurenderにも注目できます。しかし、今の所、すべての条件を満たしたプレイヤープレイヤーは市販されていません。

誰か製品を作って、販売してくれないですかね。(^^;